2 冬へ

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 居間の窓から見えるイチョウの葉が半ば散った11月末。ミカの熱が2日続けて高い。日曜日であったが母親はパートに出かける準備を進めている。 「昼まで下がらないなら、これ飲ませて。熱下げるのと、抗ウィルス用のだから」  テーブルに薬を置いた母はパートに出かけた。居間は静かになった。時計の針の音が今日はやけに大きく聞こえる。隣に妹がいない机で母親に言われている範囲の問題を半分終えたのが昼前。台所に行って収納棚から1人分の土鍋を出した。ガスコンロの上に置き、冷蔵庫から賞味期限切れの白米と水を土鍋に入れておかゆを作った。梅干しや生姜が苦手なミカのため何も入れず弱火で煮たてた。お盆に湯気が漂うおかゆと水の入っているペットボトル、テーブルに置いてあった薬を載せた。妹の部屋に向かい扉を押して開けた。洋室の中にはベッドの家具だけがある。洋服類は壁の中に押し込まれている収納棚に入っている。壁という壁そして扉には隙間なく世界地図、年表、化学式、英単語、古語、数式が貼られている。それらには手書きのメモが貼られている。 「熱はどう?」掛布から頭を出しているマスク姿のミカは焦点の合わない目を向けた。 「あつい」 「おかゆ作ってきたけど頭起こせる」 「いらない」 「食べないと早く治らないよ」 「ずっとこのままがいい」 「なんで」 「もう勉強したくない」  ミカは枕をかぶった。 「ミカ、お姉ちゃんも勉強したくない時があるよ」 「そうなの」 「うん。大学に行けば1人暮らしをしていいとお父さんもお母さんも言っていたから、がんばっているよ」 「ほんとうに?」 「本当だよ。高校に入るときにお父さんとお母さんで話し合ってきめたから。ミカも頑張って高校行ってお母さんの言う大学に合格したら1人暮らしできるよ」 「それ本当だよね。ミカも頑張る」 枕から顔を出したミカの瞳は少し輝いている。 「ちょっと冷めちゃった」  おかゆを一口食べてみたら少し冷めていた。 「ねえお姉ちゃん、昔のように食べさせてくれる?」 「わかった」  レンゲに半分ほどおかゆを掬い、頭を起こしたミカの小さな口に運んだ。 「おいしい」 「よかった」  少しずつ食べ進め、すべて土鍋が空になるころにはミカの顔色がよくなっていた。 「お母さんからお薬預かっているけど飲める」 「うん」
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