2 冬へ

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 湯気が抜けない母に一喝され部屋に行った。布団に入ると父と母の喧騒が轟いた。  翌日、少し早めに起きて父が出かけた後に部屋を出てシャワーを浴びた。朝の勉強範囲を済ませて学校に行ったもののその間の記憶が抜けている。気が付いたら地域総合病院前のバス停に来ていた。昨日とは違う人が受付をしていたが問題なく見舞客用のピンバッジを受け取った。 「こんにちは」ナースステーションに顔を出すと昨日対応してくれた看護師が明るく挨拶してくれた。その看護師の話によるとミカのマスクは今日のお昼に取れて明日にでも一般病室に移れるらしい。看護師に案内され妹の病室の前まで来た。 「先生が言うにはまだ数日様子を見る予定です」  病室に入る前に看護師が教えてくれた。  病室の扉を開けるとミカが布団の背もたれを起こし座っている。元気そうだ。 「お姉ちゃん」 「ミカ、どう?」 「うんだいぶ良くなった。まだ歩かないほうがいいみたいだけど」 「よかった。明日はお母さんが見舞いに――」 「嫌だよ」 「え」 「お母さんが見舞いに来るのが嫌なの」 「なんで」 「私お母さんが嫌いなの」 「どうして?」 「お母さん、お姉ちゃんのことを虐めて、私をひいきにするのが嫌」  ミカの言うことに頷いてしまう。母はミカのことをよく持ち上げる。 「私ね、お姉ちゃんのように覚えられないの。物覚えが悪くすぐに忘れってしまうの。お姉ちゃんのように学校のトップではないよ」 「そうなの」 「うん、いつも上の下ぐらいの成績」  薄暗い部屋の明かりがミカの顔を照らしている。 「お姉ちゃん、私ね、大人になったら明るくて笑顔のあふれる家庭を築きたい」 「治ったらその夢かなえようね」 「そうだね。お姉ちゃんの言うとおりだね」 「もう遅いから帰るね」 「……うん。そうだね。早く帰らないとお母さん起こるからね」 「元気になったら、また勉強しよ」  一瞬ミカの顔色が暗くなったが、頷いて手を振って別れた。  部屋の外で見守っていた看護師に一礼して病院を後にした。
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