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ひたり、ひたりと音がする。
一定の感覚をあけて鳴るそれが、己の足元から聞こえると気づいたのは、さて、いつの頃だったろうか……。
ワタシは闇だ。文字通りの、底知れぬ闇。
いつしか寂れてしまった空の彼方より産まれ落ちた、不可思議とも言える生命体。
ワタシが歩めばその大地は黒く染まり、ワタシが触れれば咲き誇る草花は枯れ落ちる。息を吐けば空気は汚れ、言葉を投げれば命を刈り取り、食いつくす。
謂わば、一つの殺人マシーン……。
「ねえ、そこのアナタ」
そんなワタシに、ある時、どこの誰かもわからぬ『なにか』が声をかけてきた。既に生きることすら不可能となった世界の中で、その声は弾むような喜びを孕み、楽しげなリズムを奏でてみせる。
「アナタはとても不思議だわ。一体どうやって存在しているの?」
「……」
「お肌は真っ黒。人に近いけれども人ではない。この腐った世界の中で、平気そうにしている。驚きというのはこういう時に使う言葉なのね、きっと……」
「……」
「あら、お返事はしてくださらないの? それとももしかして、お話できない?」
振り返れば、視界に写り込んだのは一輪の花。荒れ果てた大地に根を張るたった一本のそれは、どこからか吹く風にゆらゆらと、真っ白な花弁を揺すられている。
きれい。キレイだ。
とても綺麗。
ワタシはその時、初めてココロというものを奪われた。
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