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「お話しましょう。簡単よ? 私が話して、アナタも話す。交互に思ったことを口に出し、言葉を交わすの」
それが会話、というものだと理解するのに、数秒の時間を費やした。
ワタシが音もなく理解を完了させたと同時、花は再び軽やかな音を奏でだす。
優しい口調、穏やかな空気。
初めて触れる不可思議な音に、ワタシはただ、耳を傾けることしかできやしない。
「それでね、あの子ったらね──」
「その時鳥が、空を飛んでね──」
「美しい歌をうたったらね──」
花は語る。花は告げる。
止まることのない声は、返事なき会話を、心の底より楽しんでいるようにも思えた。
「──ねえ、アナタの声を聞かせてちょうだいな」
暫くの紡ぎの後、ふと花はそれを求めた。両手を伸ばしてねだる子供のように、「ねえ、ねえ」と愛らしい声がワタシの耳に届く。鼓膜を揺らす。
どこか心地の良いそれは、されど決して穏やかなものではない。
「ちょっと口を開くだけでも構わないの。そうして喉を震わせるだけでも構わないの。私はもっと、アナタのことを知りたいのよ。だからお願い。アナタの声を聞かせてちょうだい……」
懇願にも似た音は、どことなく必死さを感じさせた。なぜそうまでしてワタシなんぞと話をしたいのか、わからない。しかし不思議と、悪い気はしない。
ワタシはこてりと首をかしげて、口を開く。
花が望んだ、その通りに──。
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