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あの日(8月1日)
「私、余命一か月なんだって。だから早く遊びに行こう?」
君は顔にたくさんの海水をためて僕に言った。
8月の始まりを今年初めてのうるさいクマゼミたちの鳴き声と、君のか細い声が告げる
「そうなんだ。じゃあ急がないといけないね。」
僕がそう答えた瞬間、彼女の顔は海に覆われた。
きっとあの時のぼくの顔もそうだったんだろう。
確かに聞こえたのは、嗚咽とはいえないような人魚の鳴き声。それだけ。
「うん。だから、どこかにつれてって?私は逃げなくても、
そのうち、連れ去られちゃうから」
先ほどまでとは打って変わって、、君は笑っていた。どこか苦しそうにしながらも。
「うん。じゃあ連れ去られないように今日はここでいろんなことを話そうか」
僕もなるべく笑顔になるように努めた。あの時僕は笑っていたのだろうか。
ベンチに座り、蝉たちの音をコーラスにして僕らは歌うようにそして、叫ぶようにお互いのことを語り合ったんだ。
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