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「君は笑わないよね。なんかつまんないよ。」
公園のベンチに座り、君はいきなりそう言った。
「そうかな。」
苦笑いでそう答えるしかなかった。僕は笑う余裕なんて持ち合わせていなかった。
もうすぐいなくなってしまうはずの君に、さらに僕は惹かれていたんだ。
どこか、儚げで寂しそうな君の表情に。
花は散り際が美しいなんて聞くが、それは本当かもしれない。
そんな不謹慎なことを考えている僕の顔に迫って、君は笑う。
「ほらこうやって、口角を挙げて_......」
君が笑い方の説明をする。ぼくはそれを必死でまねる。
でも笑うほど苦しいんだ。
もうすぐいなくなってしまう君の前で、笑えるわけないじゃないか。
だから、僕に君のきれいな笑顔を向けないでくれ。
感情が抑えきれないから。
うつむく僕を見て、君は困ったように笑う。
「泣いてくれてありがとう。」
君は一言、僕の肩に頭をのせてそう囁いた。
生まれてから18年、知り合いの前、ましてや恋人の前で泣いたことなんかなかったのに。
もう日も落ちてきている。
僕たちはいろんなことを話した。
他愛もない話、将来の話。 正直、話した後は何を話したかさえ覚えていなかった。
でも、君のその一言だけが感情を抑えていた僕の心に刺さったんだ。
お互いにじゃあまた、といって家に帰った。
帰り道で君のことを考える。そのたびに頬に海水が伝う。
君の言葉だけが僕の心に夕立を降らせる。
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