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「日向と、入りたかったの。日向と旅行したかったの。じゃなきゃ頼まれたって出ねぇよ、あんな恥ずかしい催し」
「え?」
泣き真似しながらすがり付いた日向の胸から顔を上げず、逸也はくぐもったため息をひとつついた。
「お前、学校行事以外の旅行とかしたことないって言ってたしさ。連れてってやれたらいいなーって思ってたの」
「イチさん……」
そこで逸也はがばりと身を起こした。
「まっ、幸せの他力本願はいけねぇってことだなっ」
いつも通り、曇りなく笑ってみせる逸也の背中に日向は抱きついた。
「俺は、イチさんと一緒にトキタで仕事できるだけで十分幸せです。でも、でもこれからはもっと頑張って働きます。で、金貯めますからそしたら連れてってください、温泉」
「そうだなー。ふたりで一生懸命働いて、そんで行こう。温泉でもハワイでも南極でもさ」
どこにいたって一緒なら幸せで。でも日常とは違う『思い出』を作ろうとしてくれる逸也の気持ちが嬉しかった。
振り向いて日向の髪をわしわしかき回す逸也への気持ちが溢れて苦しくて、きれいに持ち上がった口角へくちづけたら、ころんとまた転がされた。
「天国ならさ、何度でも連れてってやるぜ」
いつもなら突っ込みを入れるセリフだけど、今回は素直に聞いておいた。抱き合うことで逸也が連れていってくれる世界をまた感じたい。
日向は愛しい体温を両手で受け止めた。
【今度こそ、おしまい】
ありがとうございました!
渦巻なぎ
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