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「えっ、なに? お前誰っ? てか、だ、大丈夫かっ?」
店先の手書き看板をなぎ倒し、若い男が倒れていた。フック棒を投げ捨てて駆け寄った逸也の声にうっすら目を開けたが、すぐにぐったりとまぶたが下がる。
「おいおいおい、なにごとだ?」
しばし呆然としていた逸也は、幼なじみの声に飛び上がるほど驚いて振り向いた。逸也と同じく商店街で酒屋を営む吉岡 巧が、逸也の背中越しから覗き込むような姿勢で立っていた。糸のような一重まぶたが、黒目の丸みがわかるほど見開かれている。
「なんだよ、タクか。なんか物音したから出てみたらこの有様でさ」
「とにかく、ガラス割れてるし、どかさないと危ないんじゃね?」
ショーケース脇のガラス戸に看板ごと倒れこんだようで、周囲には破片が飛び散っている。幸いなことに看板が盾になって若者には目立つような傷はない。が、意識を失っているのは異常事態だ。
「おい、大丈夫か? 聞こえるか?」
そっと肩を叩きながらの問いかけに、若者のまぶたがふるふると動いた。
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