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ミニチュアのマグカップを手に取り、軽く水で洗ってからティッシュで水分を拭き取った。
そして自分のために作ったホットミルクをほんの少しだけ(しか入らないからなのだが)ミニチュアのマグカップの中に分けて、またミニチュア家具セットの元あった場所へと戻した。木で出来た小さなテーブルの上だ。同じ材質の椅子もそばについている。
自分のマグカップに入ったホットミルクは少しずつ飲み込み、体全体がポカポカとして来た頃に飲み終わった。なんだか甘くて優しくて懐かしい味だ。そんな気がする。
マグカップをシンクの中に入れて、ベッドへと潜り込んだ。食道を伝って胸の辺りが温かい。久しぶりに落ち着いた心地になったようだ。普段はあまり飲まないが、ホットミルク、なかなか好きかもしれない。そんなことを考えていたらいつの間にか眠りに落ちていた。
夢の中には例の小人が出て来ていて、小さな体にふわふわのヒゲをたくわえて、陶器のマグカップを持っては嬉しそうにニコニコと笑っていた。そうか、よく眠れたのはあなたのおかげかな、ありがとういつもお疲れ様です、なんて夢の中ながら考えてみたりして。
朝が来て、パチリと目が覚めた。体が軽い。よく眠るってのは大切だな、と体を伸ばしながら思った。
夢の中の小人が気になり、もそもそとベッドから這い出てきてすぐにマグカップを確認した。
ない。中のホットミルクが確かに無くなっている。しかも椅子が少しだけズレている。
本当に来たのか…となると夢だと思ったあれも夢ではなかったのかもしれない…、寝ぼけた頭でも確かな驚きを感じながら、手に取ったマグカップをぐるりとよく見た。
「あっ」
やっぱり夢の中の小人は、自分のイメージが作り出したものに過ぎなかったようだ。そう、あれはただの夢だ。
だってマグカップには小さな唇の跡がはっきりと付いていたのだから。
自分も、恋人が口をつけたマグカップにこんな跡をよく見たことがある。
薄桃色の紅の色。小人の女性の間ではこの春、こんな色が流行っているらしい。
小人と聞いて白雪姫に出てくるようなヒゲの小人しか想像していなかったなんて、自分も頭が固いもんだな、と思った。
初めて自分が、眠らせる小人の姿を確認できたかと思ったんだけど、やはりそう簡単に姿は見せてくれないようだ。
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