薄桃色

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眠らせる小人、というものがいるらしい。 今日街中で小耳に挟んだ。 そんなものがいるならば是非会ってみたいものだ。 仕事は充実しているし、恋人とももうすぐゴールインかと思われるところまで来ている。 これという悩みがあるというわけでもないのだが、忙しく働いて疲れた日の夜、体はクタクタなのにも関わらず眠れない、ということがここのところ続いていた。 聞こえた話によるとその小人は、眠れない人も眠ってはいけない人も皆同様に眠らせてしまうらしかった。小人にはただの人間の都合など関係ないということなのだろう。 なんだかそれらしくて愉快だ。 そして、小人が現れると抗い難い眠気が襲って来てたちまち眠りについてしまうために、その姿を見たことがある人はいないとかなんとか、オチもそれらしくついている。 さて、そろそろ床に就こうか。 明日もあれとこれとやりたいことが、やらなければならないことが、わんさか待っているのだ。 それらを万全のコンディションでこなすためには、眠れないなどと言って寝返りばかりうっていても仕方がない。今夜は何かホッとする飲み物でも飲んで落ち着いてからベッドに潜り込むとしよう。 独り暮らし用の小さめな冷蔵庫から牛乳を取り出しマグカップに注ぎ込んだ。瓶入りの蜂蜜をスプーンでひと掬い、ツー…と牛乳の中に入れる。透明感のある黄色が真っ白な牛乳の中に沈んでいく。そして電子レンジの扉を開き、マグカップを置いてから適当な時間をセットし温め始めた。温まるのを待っている間、部屋に飾ってあるミニチュアの家具セットがなんとなく目についた。恋人の趣味で自分の部屋にも置かれているものだが、それなりに良いものらしく実際に本物と同じ素材で出来ている、と言っていたような気がする。その中には小さな陶器のマグカップもある。小ぶりな白色のマグカップ。 見つめていてふと考える。眠らせる小人が、夜(もしかしたら一日中)人々を眠らせているとき、自分たちはどうしているのだろうか。目的も眠らせる方法もわからないけれど、スヤスヤと眠る人間を見ていて自分たちが眠くなったり、疲れを感じることはないのだろうか。 自分が忙しい日々の中で疲労しているからなのか、少しだけ感傷的な気持ちになってしまった。 チン、と温め終わったことを知らせる音が自分を我に返らせた。 「…」
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