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それでも、ソファに体を預けながら、何度も左手を翳すタイチに愛おしさが止まらない。結婚式のあとの初夜のように、厳かに花を散らせてやりたくなるのは性なのか。
兎にも角にも早く飯を食わせて撤退せねば。
「そう言えばゆうべもパスタだった」
「ごめんなさい、明日の朝用のご飯が足りなくなりそうで」
「なんでもいいよ、美味いし。旅先で産地やアレコレ気を使って食べるモノを探し回る苦労を思えば」
「ね。安藤さんにホント感謝」
「ソースはタイチが作ったんだろ?」
「うん、ミネストローネの残りをアレンジしてみた。いい出汁が出てたから」
「さっき何焦がしたの?」
「チキン……せっかく柊の好きなバジルソース持って来たのに」
「いいよ。また今度作って」
「はい……」
西川くんに、そのうちタイチをオーバーワークさせてしまうと言われてるけど。それも考えた上で、シーズン中は離れて暮らして各々サポートを付けた方がいいのかと思ったけど。
実行してもたぶん俺、1日も持たなかった。何よりタイチが本当に行方不明になったりしたら気が狂う。パスポート、森くんにまとめて預けておいて心底良かった。渡してあったクレジットカードも買い物用の財布からこっそり抜き取っておいた。今後もその辺りはギッチギチに俺が管理する。黙って帰国などさせるものか。
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