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見上げたキッカーの上にはいつの間にか柊がいる。深い青色のウェアが、雪景色に浮かび上がるように映えてカッコいい……素敵……
いや、見惚れてる場合じゃなくてホントに飛ぶ気?今日は(俺のせいで)歩くのも大変だって文句言ってたのに。
「葵、ドローン出してる?」
「もう出てます。あそこに」
「絶対外さないで。太一くん、モニター見えてる?」
「大丈夫、です」
アップ、引き、上から下から横から、どのモニターも一斉に柊を映し出した。冷静に見回すとカメラ、カメラ、カメラ。これ……今日の撮影用、俺のジャンプを撮る為に用意されてたってこと?マジ?腹は括った筈なのに、やっぱりちょっと怖い。
「カメラの数、バレちゃったね」
「はい、あの、俺」
「びびった?」
「………はい」
西川さんは微笑む。灰色の瞳が、労わるように優しく見つめてくれる。
「だから柊ちゃんは飛ぶんだね。太一くんだけの為に。フェイ!ミーチャ!こっちおいで~!シュウがカッコよく飛ぶから一緒に見よ~!」
だから柊は飛ぶ。
俺のために。
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