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蝉の鳴き声も静かになり、時折涼しい風が頬を掠める頃、いつも此処に来ればオレの心は満たされていた。でも、そんな日々を送ってきた部活も、もうすぐ様変わりをしてしまう。
3年生は次の試合が終わったら引退。
次に部長になるオレは、その日400メートルの自主練を終えると、仲間が帰った後もロッカールームに座り込んで黄昏ていた。
高校に入って1年半、片時も離れたくない人が此処にはいる。ひとつ先輩の安西さんだ。
その人は男で、中学まで普通に女の子と付き合ってきたオレには、同性に心を奪われるなんて青天の霹靂。初めて陸上部の部活を見に行った時、風を切って校庭を走る安西さんに、一目惚れをしてしまう。
しなやかな筋肉と、風になびくサラサラの黒髪。身長は高くは無いが、均整のとれたスタイルで、カモシカの様に無駄なく空を斬って走る姿。そして、何よりも惹かれたのは、爽やかな笑顔とオレにだけ見せるはにかんだ眼差し。
「安西さん、受験する大学決まったんスか?」
汗に濡れたシャツをたくしあげながら聞くと、隣で同じようにシャツを脱ぎすてた安西さんがオレを見た。思わずオレの視線が安西さんの肩から流線型を描く背中に移ると、気付かれたのか脱いだシャツで身体を隠される。
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