夢の中

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夢の中

 遠くで警鐘が鳴り響いている。  空襲だ! 敵が来る! 早く逃げろと喚く声。  それを私は布団の中で聞いていた。  身動きが取れないのは恐怖のせいじゃない。金縛りで動けなくなっているだけだ。  周囲がどんなに慌てふためいていても、私は何とも思わない。だって、これは総て夢だから。  子供の頃から何度も繰り返す不思議な夢。  TVでしか見たことのないような古い家の、がらんとした一室に布団が敷かれていた。  せんべい布団という言葉が似合いすぎる薄い布団が私の寝床で、私はそこに横たわっている。  眠ってはいないが体はぴくりとも動かせず、ただじっと天井を見上げていた。  そうするうちに外が騒がしくなり、逃げろと言われても自分は動けないからどうしよう…そう思ったところで障子か開く。  いつもそこで目が覚めた。  最初の頃は怖くて、両親にも何度となくこの夢の話をしたのだけれど、実害はまるでないから父も母も本気では聞いてくれず、私自身もいつしか慣れて、あくまで夢だと割り切るようになった。  あれから数十年。  今夜もまた、私はいつもの夢の中にいる。  でも、今夜の夢はいつもと違うようだった。  外が騒がしくなり、障子か開く。いつもならここで夢は終わるのに、私の意識は現実に戻らない。  一人の女の人が、切羽詰まった声で知らない名前を口走りながら部屋に入って来る。  その顔に見覚えがあった。  今年の春先に亡くなった祖母だ。見た目は随分と若いが見慣れた面立ちを見間違えることはない。
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