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ーーーーのだが、ドアを開ける手前でそれ以上進めなかった。
それは、彼が鹿原の手首を掴み引き止めたからだ。驚いて鹿原は相手を思わず凝視してしまった。
「あのっ、え?」
「ーー待って。初めまして、えっと…俺の名前、知ってる?」
突然何を言うかと思ったら、整った顏でそう聞かれて、鹿原は困惑して思わず目を泳がした。
当たり前だが知ってる。なんたって呼び出して彼は社内一のイケメンと言われ有名だ、接点は無くとも知っているあくまで一方的にだが。
なんと答えるべきか迷い、ただ一言
「知ってます」
とだけ答える。手首を握られ身動きが取れない中見つめられていて、整った顔に緊張し顔が見れずうつむきかなり小さい声で。
なぜ聞かれたのかよくわからないが「う、海岡先輩ですよね」とまた小さな声で一応付け足した。握られた手首が熱い、あと何故か頬や耳も少し熱い気がする。反応がすぐにはなかった為か時間が長く感じ、鹿原は思わずちらりと彼を見上げた。
目なんか合わせなければ、なんて。
ーーーー心臓が止まるかと思った。
一瞬のつもりで上げた視線が綺麗に重なり逸らせない、ふわりと目尻を下げ口元も柔らかく綻んでいたから。顔が整っているな、との認識はあったが、とてもそれとは違う、アレ、アレだ、…無防備って感じの微笑みで同性だというのに心拍数が急激に上がる。少し熱かった頬が自覚を持って高揚していくのが分かった。
はっとして、鹿原は顔が赤くなっているのを知られたくなくて、すぐさま再びうつむき、海岡の手首を掴んでいる手を振り払い帰ろうとした。
しかし、その前に再び手首を取られ、壁に押し付けられた。ソフトだった為痛くはなかったが、この状況は焦る。
「ちょっ、先輩」
「あのさ俺、」
壁ドンに近い体勢でどう反応したらいいか分からない。ドラマみたいなできたシーンだ。キャストも海岡主演で映える。ーーーこれで宮田であればとても理想のような画が撮れているはずなのに。
彼の顔なんて見れない。いや鹿原の顔が見せれないくらい赤いきっと。
なのに。
*
「好きなんだ」
*
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