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俯き気味で、耳とか少し赤くして鹿原の耳元で。
「好き、なんだ」
念を押すように再度、彼は呟く。
「…好き…?」
思わず聞き返してから沈黙が流れる。彼は鹿原を壁に押し付けたまま動かないし、もちろん鹿原も言葉が出てこない。
誰が誰を?誰に対して言っているのか、全く理解できず、ぽかんとなる。
頭を回転させ考え、沈黙のよくわからない空気に耐えられずとっさに口を開いた。
「あ、えと。宮田先輩、ですよね。その、連絡先教えるのとかはちょっと難しいですけど、直接紹介ということなら、その…だから」
だからもう解放してほしい。
鞄をぎゅっと握り、目を合わせないように泳がし周りを確認する。隙を見て腕を振り払ってこの場から去りたい一心だ。
「えっと、だから。ちょっと僕用事あって…帰ってもいいですか」
と言いつつ、握られていた手を振り払い逃げようとした。
が、再びすぐに彼に手を掴まれ引き止められる。しかも更にぐいっと整った彼の顔が近づき、ぎゅっと目を瞑りたい気分だ。何か言い訳を言わねばと気が急く。
「ちゃ、ちゃんと宮田先輩には紹介するので今日は見逃してくだっ…」
「違う…!」
なのに、少し苛立つように低く叫んだ彼の剣幕に押されて鹿原は押し黙った。すると手を握られていない方の顔の横に手を突かれて、本格的に逃げ場がない。
「何か勘違いしている見たいだけど、俺が好きだと言ったのは宮田さんのことじゃないよ」
「じゃあ、だれ…」
鹿原の編集部には宮田以外では全て既婚者だ。まさか、と思った時
「君が好きなんだ、と言っているんだ。鹿原くん」
「ーーーーー、僕…?」
彼の低く抑えた声が耳に響き反響している。しばらく理解できずたっぷり数秒考えてから鹿原は聞き返した。
聞き返したはいいが何か違う気がする。決定的に何かが違う。
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