思い出と傷

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あの日の放課後、ドアの向こう側から聞こえてきたその声は、いつも私を動物に例えて笑って話かけてくれた彼女の声だったのだ。 その後私は宿題を取ることも忘れて家に帰り、帰りが遅かったことを心配してくれた母の目の前でボロボロと涙をこぼしたことまで鮮明に覚えている。 嫌な記憶とはなかなか頭から離れていかないもので、いつもよりもワントーンも低い結花の「可愛くない」という言葉は私を縛り付け、人と話すどころか目を合わせることすらも怖いと感じるようになってしまい、5年が過ぎた今日まで治ることはなかった。 その事件を堺に私が結花と話すことは殆どなかった。というよりも私から結花に話しかけることがなくなったのだ。話す機会が急に減ったとき、私が一方的に縋っていたことに気付かされて寂しくなったのもなかなかに苦い思い出だ。 それから5年という月日が流れ、今日は高校の入学式だ。 案の定中学時代も友達をつくれず、ほぼ毎日一人図書室に籠ってはずっと本を読んでいた。 しかし今日から花の高校生!いい加減人と話せるようになりたい、そう考えた私は長かった前髪(人と目を合わせないためだった)を切って、少しでも明るく見えるようにとほんのりおめかしをしてきた。ほんとにちょっとだけど。 わざわざ知り合いが少なさそうな高校を選んだのだ、頑張って友達を作ろう。
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