1. プロビデンスの目

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 事件があったという三島重工の本社工場を訪れ、私は受付で話を聞いて、黄色いテープで囲われた第一工場に案内された。そして入口の前に立っていた警官に、勇気を出して派遣の要請があったことを伝えた。彼は現場を仕切っている上司に連絡すると言っていたが、そこに通りがかったのがあの女だった。自らが連れて行くと言い張り、渋る警官を横目に工場の中へと私を連れ込んだのだ。  そうだ、元凶はこの小さな女だった。 「中川さん、でよろしかったですか」  石島から自身の名前を呼ばれ、記憶の旅から戻った。私は彼らの後に続いて、工場内を歩いていた。 「確認しますが、現場にあったロボットはあなたの会社の製品ですよね」 「そうです。ラベルは見えなかったですが、可搬重量三十キロの産業用ロボット、通称アレスで間違いないと思います」  血で覆われていたが、ロボットやコントローラのフォルムは、よく見覚えのある自社のものだった。ジャードのロボットは用途に応じた多数の種類があり、製品番号だけでは分かりにくいので、通称としてギリシャ神話の神の名前がつけられている。アレスは、オリンポス十二神の一柱で、戦いを司る。 「あのような現場を見せてしまい、ショックを受けられたお気持ちは大変分かるのですが、我々はこういう機械にまるっきり疎くてですね。ぜひ捜査にご協力をお願いしたいのです」  女のせいで警察に対する不信感が限りなく増していたが、彼女が特殊なだけであって、石島は常識的で信用できる人間のようだった。社長の依頼の件もあるので、申し出を断ることは考えられなかった。 「大丈夫です。協力させてください」     
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