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「考えたことはないか。もし、僕がエレベーターに細工をしていなければ。もし、お前と遥が付き合っていなければ。もし、お前が僕を出し抜くことが無ければ。もし、僕達の誰か一人でも欠けていたら。ここに遥のいた未来があったのかもしれない。あの頃人工知能があったなら、そんな未来を選び取ってくれたのかなって」
私は表情を変えずに答える。
「遥は死んだ。加藤さんも、伊藤さんも死んだ。それがお前の選び取った未来だ。人工知能は関係ない、きっちり罰を償ってこい」
石島に先導され、岡部が連れて行かれる。座席の間を抜け、その背中は食堂から見えなくなった。
「殺さなくてもよかったって、なんだよそれ。遥も、加藤さんも、伊藤さんも、殺される必要はなかったのに、殺されたってことかよ……」
「生来の殺人者なんていない。多分、エレベーター事故の時は、やましい目的はあったにしろ、本当の事故だったんだと思う。けれど、そのことを罪に問われなかったことが彼を狂わせた。自分が特別だという錯覚を持ち、殺人を続けてしまったんじゃないかな」
生駒は顔を伏せ、物憂げに言った。
「でも、それ以上彼らの思考を追いかけるのは止めな。深遠に見入られるよ」
帰宅ラッシュと重なってしまい、三島駅の構内は混雑していた。私と生駒は石島を盾にして、人ごみの中を進んでいた。
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