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「助けてくれて、ありがとう。記憶をなくした時も、来てくれて本当に助かった」
『あたしを信じて協力して』と、焼肉屋で生駒はジョッキを掲げてそう言った。半信半疑で提案を受けたが、彼女はとても頼りになった。信じて共に行動してよかった。
「こちらこそ、捜査に協力してくれてありがとう」
生駒が敬礼を見せた。ちんちくりんな感じがして、石島のようには様になっていなかったので笑った。
「あたし一人の力じゃ心もとなかったけど、ナカさんがいてくれたから、なんとかなったんだ。ナカさんは、最高の助手だった」
お互いに口を閉じる。本当はもっとたわいもない話をしていたい。しかし気の利いた言葉の一つも思いつかない。
電車が止まって大勢の乗客が降りてきた。このままホームの真ん中にいては邪魔になる。
「それじゃあ、元気で」
口から出てきたのは、自分で望んでいない言葉だった。
「うん」
生駒がドラムバッグを振り回して、こちらに背中を向ける。短い足が地面を蹴り、距離が開いていく。
私は出しかけていた手を引っ込めると、振り返って反対方向の乗り場へと向かった。
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