5人が本棚に入れています
本棚に追加
私が目にしたのは、凄惨な事故現場だった。思考のため頭の中を巡っていた血液が、胸の方まで下がっていく。ひどい悪寒が押し寄せ、視界が揺らぐ。胃袋が無意識の内に収縮を繰り返し、口の中に酸っぱいものがこみ上げてくる。目に映る全てがフェードアウトしていく。
「ふっ」
傾きかけた体を支えるため足を踏ん張り、声を漏らした。微かに溜まった唾液を飲み込み、からからになっていた喉を潤す。すっと消えてしまいそうになる自分を引き止めた。不思議なことに、こんな血だらけの光景や、鉄とアンモニアの臭いには既視感がある。
目の前のロボットが形を取り戻す。狭まっていた視野が戻り、作業場の全体が視界に入る。気づかないうちにひどい呼吸をしていたので、リズムを戻す。背中が汗でびっしょりと濡れ、シャツが貼り付いていた。
「やるじゃん。部外者で吐かなかったのは、あんたが初めてだよ」
女の好奇な目が私に向けられていた。私はゴミ袋が手渡された理由を理解した。この女は、吐くか倒れることを承知で、私にこの現場を見せつけたのだ。
「それはどうも」
こみ上げてきた怒りを込めて、かといって大人気ない反応をするのは我慢して、ゴミ袋を乱暴に押し返した。女は目を丸くし意外そうな顔をして受け取った。
「おい、その人は俺の呼んだ、ジャードの技術者だろ。なんで現場にいるんだ」
最初のコメントを投稿しよう!