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後ろから怒号が飛んだ。振り向くと、目尻を吊り上げすごい剣幕でこちらに詰め寄ってくる白髪交じりの男性が見えた。筋肉質な体型のため、黒いスーツはところどころ布地が張っていて形が悪い。男は慌てているのか、入口の黄色いテープに引っ掛かりながら雑にくぐった。
「状況を説明するより、見せた方が話が早いでしょ」
立ち塞がった男を見上げて、女は淡々と答えた。身長差がひどく、女の背は男の胸くらいまでしかないが、まるで動じていない。
「お前はロボットか何かか。人の世界では、早さより大切なものがある。その一つが心だ。参考人がトラウマにでもなったら、お前は責任を取れるのか」
この現場でロボットに例えるのは不謹慎だと我ながら冷静なことを考えながら、私は二人のやり取りを見守っていた。静かに足を引き、二人から距離をとった。
「大丈夫そうだよ、ほら」
モノでも指すかのように、女は人差し指を向けてきた。男は即座にその手を払いのけた。
「それは結果が、たまたまそうだったからであって――」
男のこめかみに血管が浮き出る。爆発でもするのではないかと私は身構えていたが、男は言葉を止めた。見られているのに気付いたようで、気まずそうにこちらを振り向いた。
「大変見苦しいものをお見せしました。申し遅れましたが、私は静岡県警の石島です」
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