1. プロビデンスの目

9/16
前へ
/223ページ
次へ
 石島が警察手帳を取り出した。開かれたページには、確かに男の、実際よりも人当たりのよさそうな写真が貼られていた。声が出てこなかったので、私は返事の代わりに軽く会釈をした。 「うちの人間が、ひどいことをして申し訳ありませんでした。お気分の方は大丈夫ですか」  ひどい顔をしていたのだろう。私は頷いたが、石島に促されて血だらけの現場から離れることになった。  どうしてこんなことになってしまったのだろう。  私はジャードという、ロボットや工作機械を扱うメーカーの技術者である。客先でロボットの立ち上げを行うため、静岡の三島に前日入りしたのは昨晩のこと。ビジネスホテルに泊まり、翌日の仕事に備えて早々と横になった。  しかし翌朝早くに目を覚ますことになったのは、目覚ましではなく、スマホの着信音によってだった。電話に出たのは、なんと社長だったので、私は一瞬で覚醒した。寝起きと緊張のせいで聞くことに徹していたが、会社の製品によって事故が起きてしまったという。静岡県警から技術者の派遣が要請されており、それが私に任せられた。警察への協力はもちろんだが、原因がロボットの不具合ではないことを証明できるように、しっかり情報を集めるようにとのご下問だった。偶然現場の近くにいた私に、白羽の矢が立ったのだ。     
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加