硝子玉の思い出

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子供の頃、本が大好きだった。 所謂本の虫というやつだ。 1日に1冊以上は読む。 ジャンルは小説。特にファンタジー。 現実世界の話よりもファンタジーが好きだった。 何故そちらが好きなのか。 その差は風景だ。 見たことのない風景を見れるからだ。 夕焼けで輝く黄金色の小麦畑 そよ風に揺られる見渡す限りのスミレ 全てを飲み込もうとする荒波と轟く雷鳴 鮮明にその風景を思い描き、想像の中で感覚や香り等を楽しむ。そうすると、まるで世界各地を旅行しているかの様な錯覚に陥る。 私はこれが好きだった。たまらなかった。 だから早く次の風景を見ようと本を読み漁った。 しばらくして私は大学生になった。 大学生と言うのは今まで以上に社交性が求められる。分かりやすい例だと飲み会等だ。 交遊費にお金や時間が取られ、だんだんと読書の時間は減っていった。 社会人になる頃には全くと言って良い程本に触れなくなってしまった。 仕事に終われ、休日は友人達と過ごす。 充実はしているし満足もしている。 だが、時折ふと思い出すのだ。あの風景らを。 疲れている時に綺麗で穏やかな気分にしてくれる風景が、乱暴な気分の時は荒々しい風景が、 ふと甦るのだ。 またその風景を鮮明に感じたいと思ったりもする。 しかしそれは不可能に近く2度と感じられないのではないかとも思う。 何故ならあの頃の私はあまりにも沢山の本を読んだために、どの本がどの風景だったかがごちゃ混ぜになっているからだ。 それでも、今も忘れられないあの風景を、脳裏にちらつくこの風景を鮮明に感じたい。 私の中の硝子玉の様にキラキラした記憶を再び甦らせたいと、強く願うのだ。
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