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「マジか、やばい。集合遅れると超怒られる」
そう言って少し焦った二人は目の前の細い男の人の肩にポンと手を置いて、ありがとな、とお礼を言ってから走って行ってしまった。
よくわからないけど、気まずい状況から救われてホッとした。
残った先輩の顔を見ると、目が合った。
「良かったね」そう言って優しく笑った。
その一言と笑顔で、困っている自分のためにやってくれたことなのだと一瞬で理解した。
ありきたりな話で自分でも単純だと思うけど、やられた、と思ったのだ。
一気に顔が上気するのが自分でもわかった。
それから、その先輩の入っている部活を聞いて、追いかけてそのまま入部したのは我ながらわかりやすいと思う。
しかもその肝心の部活はと言えば、俗に言う漫研、漫画研究部だった。
あれから一年と少し経って、私は二年生になった。
先輩はと言うと、今では漫研の部長になっている。部員数も少なければ進んで長を務めるような人も少ないけれど、それでも押し付けられてやっている訳ではなくて部員全員の話し合いの末、彼にやってほしいということで決まった。物腰が柔らかくて誰に対しても優しい先輩は熱烈に憧れられたりすることはないものの、みんなから好かれていて人望があった。私の好きな人は素敵な人です。
好きになって一年以上が過ぎていても何も進展はしていないけど。先輩の近くで仲の良い後輩として過ごしていられるだけでも幸せ。入部した時にはあまり詳しくなかった漫画も、その面白さに気付いてからは大好きになった。新しい漫画を読む度に自分の世界が広がっていくみたいで楽しい。
部活のある月水金の放課後は私の大切な時間になっていた。
今もみんなで部室に集まって、今度新聞部に頼まれて学校新聞に載せる予定の『夏休みに読んでほしい漫研オススメコミックス10選』という記事の漫画を話し合って決めているところだ。
話し合いをしている…というのに、寝息が聞こえる。
スゥスゥと気持ちよさそうに音を立てているその子は、ひとつ下の後輩、青井だった。
「こら、青井、起きなさい!」
同じ中学で顔見知りでもあった私が声をかけて起こそうとする。
「…あー、すいません」
気怠そうに青井が目を覚ます。
「先輩方に失礼でしょ」
なんて小声で注意すると、
「母さんに起こされたかと思ったよ、今のも母さんみてえ」
と悪態をつかれた。こ、小憎たらしい…。
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