こちらが立たず

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ひとつ上の人を好きになってしまった。 知らなかった、世の中って広いんだ。男の子、って同じ教室の中だけじゃないんだ。 同い年の男の子にしか恋をしたことのなかった経験の浅い私には年の違う人を好きになるなんて衝撃的なことだった。 それは念願叶って志望の高校に入ってすぐのこと。 春、新入生に対する部活の勧誘が盛んな時期だった。 中学時代は特にやりたいこともなくて、何となくお花が好きだから、という理由で園芸部に所属していた。学校の花壇にお花を植えたりそのお世話をしたり、実際は学校の環境整備の雑用をやらされてるって感じだったけど、それでも自分の育てたお花が綺麗に花開いたりすると嬉しくなったりして、園芸部での活動は嫌いではなかった。 高校には園芸部というものはないらしい。代わりに美化委員があるみたいなので、委員会はそこに入ろうかな、なんて考えながら学校の校門から下駄箱に向かって歩いていた。 そのとき、自分よりも大きな二つの影が目の前に立ち塞がった。 見ると野球部の先輩らしく、ユニフォームを着て「新入部員&マネージャー大募集!」と書かれた看板みたいなものを持っていた。 「君さ、新入生だよね!野球部のマネージャー興味ない?」 えらく大きな声でそう話しかけられた。少し萎縮してしまう。 「ウチの野球部強いし、かっこいい先輩沢山いるよ!」 もう一人の人が矢継早にそう言う。 何だか荒っぽい感じがして、運動部の男の子達が昔からあまり好きになれなかった私には、野球部のマネージャーなんて絶対に出来ない。 「すみません、あまりそういうの得意じゃなくて…」 柔らかく断ったつもりだった。 「大丈夫!仕事は先輩が教えてくれるし、難しいことないから遠慮しないで!」 遠慮とかじゃなくて嫌なんだけどなあ…。 野球部の人達は、それに可愛い子連れてこいって言われてるし協力してほしいなあ…とかぼやいていて何だか余計に気持ち悪く感じてしまった。 思わず俯く。参ったなあ…強引な人も、断るのも苦手だあ…。 その瞬間にもう一つ影が増えた。 「野球部、集合だって。顧問の先生がさっき大きな声で言ってたよ」 柔らかい声だった。顔を上げると線の細い男の人が笑顔で野球部の人達にそう声をかけていた。
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