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夢羊
山羊の仮面を被った不思議な男。
彼は決して名前を語らない。
私は彼を、夢羊と呼んでいる。
たくさんの風船を抱え、今夜も私の夢の中に現れる。
「こんばんは、お嬢さん。今夜も、あなたのご要望にお応えして、様々な夢を用意しました」
「こんばんは、夢羊さん。今日のおすすめは何かしら?」
仮面で表情は読み取れないが、夢羊はきっとニッコリと笑ったと思う。
「そうですね……。恋の夢なんてどうでしょうか?」
「恋?」
「そうです、恋です。今日は、とても楽しくない一日を過ごされたように見えましたので、恋でもして気持ちをリフレッシュしてはどうでしょうか?」
「そうね……」
夢羊に言われて気づいたのだが、ここ最近恋なんてしていなかった。最後に誰かを好きになったのは、もう半年も前のことで、久しぶりに恋をして、退屈な毎日の疲れをリフレッシュするのも悪くない。
「夢羊さん、恋でお願いするわ」
「かしこまりました」
そう言って、夢羊は持っていた風船の中から、薄いピンク色の風船を私の前に出した。
「では、今宵もよい夢を……」
夢羊が、薄いピンク色の風船を割ると光の粉が私を包み込みこんだ。
不思議な話ではあるが、私は夢の中で眠りについた。
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