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三十分後――。
私たちは、水族館に着きました。
「……凄い」
辺り一面、ガラスの壁に囲まれた中に、色々な魚が泳いでいて、その美しいも幻想的な光景に見蕩れてしまいました。
「きれいだね」
「うん、凄くきれい。来てよかった」
「……」
男は、黙って私の顔を見ていました。
その目はどこか哀しげで、先程までの優しい顔とは違い、影が射すようです。
男は、その表情のまま水槽に視線を向け、口を開きました。
「ここに来るのは、三回目なんだ」
「三回目?」
「そう、一回目は、彼女と初めてのデートで来て、二回目は……。彼女と別れる時に来たんだ」
「……そ、そうなんだ……」
少しだけ、胸の奥にチクリと棘が刺さります。
私といるのに、他の女のことを思い出している男に、嫌な気持ちなったからです。
いや、そうじゃない。
私は、こんな素敵な男に、今も想われている女に嫉妬したのでした。
私は、恋愛に対して消極的な一面があり、別れても相手のことを想ったことはありません。
それほど、恋愛に対して熱を帯びたことはなく、正直、男のように誰かを心の底から想えることを、純粋に羨ましいと思いました。
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