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……
「サッチャン、なんかあった?」
私が下を向いてフォークを力強く握っていることに気付いたのは、彼氏のシンタロウ。
シンタロウとはもう長い付き合いだ。
「ううん、何でもないよ。美味しいね、このパスタ」
微笑みながらそう言うと、シンタロウも微笑んだ。
いけない、今日はシンタロウの家でご飯を食べていたのだ。
シンタロウの前では、“本当の顔”を見せてはいけない。
「サチ、話があるんだけど」
きた、今日は絶対そんな気がしていた。
この日を待っていた。
この日を……
「サチ、結婚しよう」
シンタロウが真面目な顔をして、目の前にキラキラの結婚指輪を差し出す。
私のミッションは成功した。
ミッションコンプリート。
これで自由になれる。
私は目頭が熱くなるのを感じた。
別に、シンタロウじゃなくても良かった。
シンタロウのことは嫌いではない。
顔がそれなりにかっこよくて、私が専業主婦でいられるくらいの年収で、優しければ、それは誰でも良かった。
シンタロウを抱きしめて微笑む。
「ありがとう、シンちゃん。私、とっても幸せだよ」
*
「話、終わったなら、私は帰るよ。お幸せに」
サチに言い捨てるようにお会計を済まして、足早に店から出た。
もうためだ。
これ以上サチと話していると憎悪で心が汚れる気がした。
なぜ、私はこんなにもサチに対して憎しみを持つようになってしまったのだろう。
なぜ、こんな気持ちにならなくてはいけないのだろうか。
そう考えながら、今日も私はバイト先へ向かった。
風がとても心地よい。
私の汚い心を浄化してください。
サチのことを好きだったあの頃のように。
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