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「いやしかし、目に映るもの全て夏ね。」
今度は何を見ているのかと視線を追うと入道雲がモクモクと浮かんでいる。
それはさっきの入道雲が形を変えてさらに一回り大きくなったもののような気がした。
あれこそ夏の正体っぽいんだけどねと僕が言うと、
「あれも夏の一端に過ぎないよ。全貌はもっと大きいんだから。」
とさっきと同じ事を君が言って、ははははっと二人して笑った。
「八猿湖に着いたらソバを食べましょう。」
君はそう言ってベンチに腰掛ける。
古い木造の駅舎がホームから見える、なに、よく見回せばホームもどことなく古めかしくなかなかに乙なものだ。
何故か鳴くのを止めていた蝉が急に鳴き始めたと思ったのは僕が意識をしだしたからか。
それを合図に僕もベンチに腰掛けた。
日陰になっている乙なホームに風が吹き抜け、君は涼しいなと呟いた。
それでも太陽は相変わらず僕らを熱烈なまでに見つめ続け、ベトナムのような熱さが僕らの身体を包み続ける。
負けじと風がまた吹いてくれて、君はその度に涼しいなと言って堪えきれなくなり笑う。
「ははははっなんか可笑しいね。風頑張るね。」
さっき見つけた入道雲はまだ同じ形をしている。
今回のもまた徐々に徐々にゆっくりゆっくりと変化して、今度はさっきより小さくなってしまうのかこれ以上になるのかわからない。
でも、まあその時はその時で、横では心底可笑しそうに君はクスクス笑い続ける。
「風頑張るね。」
僕も堪えきれずに笑う。
ほんとう風頑張るね、はははなにこれ涼しい。
電車が来るまでにあとしばらくは時間があるけどいつか電車はやってきて、あと二駅で八猿湖に到着する。
君のオアシス八猿湖。
一体そこはどんな場所なのか、君が憧れ抱く八猿湖は君の想い描く場所なのか、実際に見てみて君はどう思うのか、見た後もオアシス足るものであり続けられるのか。
でも、まあその時はその時で、今はとにもかくにも風がめっちゃ涼しい。
何これ風頑張るね、と君が言って…、
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