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「西伯――西伯――」
西伯駅に到着した。
君は西伯駅に到着したねと言った。
続けて、「ほら見て見てなんだか皆西伯顔しているよ。」
確かに僕らの住む梅宮市街地と距離はあるけれど、結局は同じ市内の人間であって顔に差異などあるわけなく、でも君に言われると確かに西伯顔に見えてくるから困る。
西伯駅付近はもう山の中と言っても差し支えない地域なのにマンションが建ち並ぶ。
こんなにも多くの人が住んでいるのだろうか?
それともこれから多くの人がこの街にやってくるのだろうか?
きっと何処の街も発展をしたいのだろう。
発展する為には人を呼ぶしかなく、人を呼ぶ為にはマンション作れば良い、なんて単純なことでもないんだろうけれど。
線路を挟むように立ち並んだマンション群のさらに細部、主に玄関だったり階段だったり、ベランダだったりを眺めつつ、ああこの一つ一つに僕の知らない誰かの生活が詰まっているんだなと、なんか誰もが思って誰もがこれ見よがしに話すような感想を僕は嫌悪していたけれど、結局僕も同じ事を思った。
「何かすごいね。マンションだらけ。」君も言う。
西伯を過ぎてから僕ら二人は妙にボーッとしていた。こうした暑い夏の日にこうして冷房がキンキンに効いた室内でぼーっと溶けるような暑さであろう外を眺めるのは嫌いじゃない。
とても静かで、なんだか外の世界と切り離されてしまったかのようだなと思うのは結局車内が異様に涼しいからで改めて冷房を作り上げた科学の発展を凄い事だと実感したけれど、まあ暑くても人は生きていけることを考えると人間は最低限というものを嫌う欲深い生物だなとも思った。
なくてもいいものをなければ困るものに次々と変えていく人間の欲深さは暗くて深い井戸のようだと青い空に浮かぶ入道雲を見ながら思ったけれど、その入道雲の異様なデカさにそんな心の底から思ってもしない人間へのフェイク憎悪の気持ちはたちまち雲散していった。
「あの入道雲は一生雲散しなさそうだぜ」と僕は呟き、隣の君も見ているものかと視線をやると君は電車の中づりに掲載されている脱毛の広告に興味津々で入道雲なんてこれっぽちも見ていなかった。
「脱毛したいの?」と聞くとわかりやすく顔を赤らめ、毛がなきゃ困る時がいつか来るんだよとよくわからないことを言った。
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