「こんにちは、あの人が愛した周縁の街の朝焼け。」

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 「次は甲斐地(がいち)次は甲斐地(がいち)」 次は甲斐地駅らしく駅員がアナウンスした。 車内に人影はまばらで、僕と君を含め四人が乗っているのみだった。 人がいないと尚冷房の効きが強く肌寒さを感じた。 肌寒さを紛らわせる為に君に気になっていた事を聞く事にした。 「ねえ、なんで八猿湖行きたいと思ったの?」 突然の質問にも君は微動だにせず、脱毛の広告を見つめ続けながら言った。 「なんか、私はあの湖に特別な想いを抱いているんだね。」 それは一体どんな想いなのか、僕が聞かずとも君はゆっくりと話し始める。 「……もしさ、もし私たちの住む梅宮市でバイオハザードが起きたとしよう。そうするとさ、バイオハザードなわけだから、街の人々はゾンビに変わり果てていくんだよ。でも幸運な事にその日もその日とて学校を欠席している私はゾンビにならずに済むの。ああいうのってやっぱり家の外にいるのが結局一番危ないの。街の異変に気づく私、しばし部屋の中から様子を見る、変わり果てた家族が帰宅、うーうー唸って私に襲いかかる父さん、仕方なくゾンビお父さんのドタマにテレビを打ち込み命からがら逃げる私、逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ私はゾンビになりたくない。でも何処へ?何処へ逃げればいい?そんなときに一つの場所が思い浮かぶ。そうだ八猿湖に行こう。あそこへ行けば大丈夫だって根拠無くそう思うの。根拠無く思えるって凄くないかな?何か理由なくともそこに謎の信頼があるんだよ。それは凄い事なんだよね。特別な想いを持っている。……そう、だから私一度そんな八猿湖に行きたいって思ったの。特別な場所だから」 「太刀時(たちとき)――太刀時(たちとき)――」
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