「こんにちは、あの人が愛した周縁の街の朝焼け。」

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 「雌裸(めすら)――雌裸(めすら)――」 雌裸駅に到着した。 僕らは一旦下車し飲み物を買う事にした。 案の定な熱気が身体を包んだ。 やっぱり熱い。 期待を裏切らない夏の面白みのなさに嫌気が差しつつもこんな時はお茶に限るよなと嬉々として自販機でお茶を買った。――何か乗り物酔いしても喉を通るものってのがいくつかあってさ、お茶はその一つ。食べ物ならソバね。なんかどんなに気持ちが悪くてもそれらを口にすれば少しは元気が出るんだよね。 「何かわかるよ、それ。私も皆の楽しげな声を余所に一人車酔いしている時に、果汁グミを食べて元気が出た以来果汁グミは車移動のお供だよ。」 ははははっと二人して笑った。 ほら見て、なんかモヤモヤと揺れている、アレが夏の正体よね。 君は線路を指差しそう言った。 お茶の冷たさに口腔内に衝撃が走っていたので、何について言ってるのかしばしわからなかったけど、その君の言う夏の正体が陽炎のことだと、僕もそこを見てようやくわかった。 線路とその線路を取り巻く景色が揺らめいている。 夏の正体かどうか知らないけど、その揺らめきは確かに何度見ても不思議だ。 目に見えないものが何かの間違いで視認出来てしまったとしたらあんな風に見えるのかもしれない。 幽霊だとか、オーラだとか、そんなものが見えるという胡散臭い人達を心の何処かで馬鹿にしていたけれど、なに、僕だって立派に幻をその目に映しているじゃない、なんて。 「あれは夏の一端に過ぎないよ。全貌はもっと大きいんだから。」 「こーんなに」と手を使って夏の全貌とやらの大きさをジェスチャーする君の額に汗が浮かんでいる。 綺麗な玉の汗で、きっとこれも夏の一端。 どうぞ使ってとハンカチを渡す。 ありがとうと君は手に取って汗を拭いながらさっき自販機で買った紅茶を飲む。
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