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流れが動き出すと、止めることはできない。
職人がなめらかな手さばきで、かすかに牛の名残があったものを、牛肉に変えてゆく。
圧倒的な質量を誇っていた肉塊も、刃をあてられるたびに度に重みを失って、一瞬の荘厳さは日常の作業の中に埋もれ、消え果る。
風待は段ボール箱を組み立て、高く積み重ねた。
最初の一陣がやってきた。部位ごとに切り分けられ真空パックで密封された牛肉を計量し、機械から吐き出されたラベルをパックと段ボール箱に貼り付ける。
パックを箱に詰め、結束機で梱包し、荷台に乗せる。
流れは待ってはくれない。
ひたすらに箱を組み立て、量って、詰めることを繰り返し、合間をぬって冷蔵庫へ大型のリフト付き台車を使って運び入れる。
タイミングを見計らって出たつもりでも、持ち場を離れるとすぐに作業台の上は真空パックでいっぱいになっている。
それを大急ぎで片づけて、次の流れがやってくるのを待ち受けなければならない。
その一つ一つは切り分けられたといっても、ひと箱二十キロ近くあるものもある。
若さと細身に似合わぬ筋力が買われて、というよりもそれしかないのだが、任された仕事だが、息を継ぐ間もない作業に次第に疲労がたまってくる。
「次のリクエストは、これ行きましょうかね。今日がちょうど結婚記念日のご夫婦」
こんな時やはり助けになるのは音楽だ。
できればノリのいい曲がいいが、まぁなんでもいい。リズムが必要だ。
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