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「この時間にこんなに混んでるなんて」
遅めの昼食を取ろうと食堂に向かったフランセスカだったが、ドゥーエ領に魔獣討伐に出ていた部隊が帰還したらしく、閑散としていた本部の食堂に活気が戻っていた。いつもならば空いている将校用の食台も、今日ばかりは溢れた下士官も一緒になって座っている。これではゆっくり座って食べるのは難しそうだ。
食堂内で食べることを諦めたフランセスカは外の椅子に座ることにした。ここでも日除けがある椅子は先客で埋まっていた為、日除けがなく直射日光が当たる椅子に腰を下ろす。
(この混雑じゃ、姿を拝めそうにないわね)
フランセスカの部隊も明け方に帰ってきたばかりで、報告や騎獣の世話、装備品の手入れなどやることは山積みだ。落ち着くまで四、五日はかかるだろうし、任務疲れで気持ちに余裕がない。アーゼント率いる遊撃部隊も同じことだろう。寝不足ということもあり、ぼんやりと目の前の紅く色づき始めた樹木を見ていると、ふいに影がさした。
「やあ、フランセスカ。横いい? 」
「アーゼント隊長、お帰りなさい」
食堂に入れなかったのであろうアーゼントが昼食の器を両手に持って現れる。こちらも寝不足なのか全体的に覇気がなく、二重のはずの瞼が三重になっていた。
「お疲れですね」
「厄介な魔毒を持った魔獣が大量発生してね。根絶やしにするのに手間取ってあまり眠れなかったんだ」
隣に腰をおろしたアーゼントがフランセスカに向けた顔は、酷いくらいに疲弊していた。
「そういう君も大丈夫かい? 」
「今年は魔獣の当たり年なんですかね。流石の私も夢を見る暇なんてありませんでした」
お互いに疲れた顔を見合わせて微笑んだ二人であったが、同時に違和感に気がつく。
フランセスカとアーゼントはこれが初対面である。なのに何故、こんなにもしっくり馴染んでいるのか。確かにそれぞれの夢の中では親しい仲となった。だがそれはあくまで夢の中での話だ。現実には直接話したこともなく、親しげに「フランセスカ」「アーゼント隊長」と呼べる筈もなかった。
「フランセスカさん。あの、一つ聞いてもいいかな? 」
「わ、私も、お聞きしたいことが」
「君とどこかで会ったかな? 」
フランセスカは首を左右に激しく振り、それを否定した。会ったことなんて、ない。まったくお近づきになれない日々は現在まで進行形である。
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