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「君に偉そうに説諭したり、君と親しくなりたいと口説いたり、それはまぎれもない本心なんだけど」
アーゼントの苦し紛れの弁解に、フランセスカは顔面蒼白になって絶望に顔を歪ませた。
「忘れてください」
「えっ?」
「私が今話したこと、忘れてくださいっ! 」
「フラン」
「私っ、知りませんから! 」
「待って、もう少し話を聞いて」
アーゼントは失敗した、と頬ぞを噛んだ。あの嫉妬に任せた口付けを否定するということは、フランセスカ自身がそういう行為を望んでいることを肯定しているようなものである。図らずも胸の内を明かしてしまったフランセスカにとっては最悪の事実だ。それがアーゼントが身の保身の為についた嘘によるものであっても。
「違う、違うんだっ、君の願望なんかじゃない」
「知らない、知りません! 」
「ごめんっ、自分が悪かった」
「うーっ……えっ?」
「違うんだ、自分が卑怯だった。正直に言うからどうか聞いて欲しい」
羞恥心と絶望から涙目になって耳を塞いでいたフランセスカの両手を掴み、真剣な表情で見つめる。さらに「ごめん」と言うと大人しくなった彼女と目が合った。
「嘘をついてごめん。その、あれは君の願望なんかじゃなくて、自分の願望なんだ」
「う、そ」
「君のことが気になって、夢で親しくなれて、調子に乗った自分が悪かった」
「あの口付けは隊長の願望? 」
「そうだ」
「どうして、そんな 」
「夢だけど夢じゃないと思いたい、僕は君のことが」
「駄目、やっぱり忘れてくださいっ! 」
いきなり言われて受け入れられるほど恋愛経験値がないフランセスカは、掴まれた手を振り回して逃げ出そうともがく。
「嫌だ、覚えてる」
「そんなっ」
「君が髪を拭いてくれたことを忘れたくない。君の相談に乗ったり、嫉妬して喧嘩までしたことも」
頑なに顔を見ようとしないフランセスカに、アーゼントは辛抱強く語りかける。
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