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始まりの夜
土砂降りの雨が煌びやかに飾られた屋根を叩く___その音をかき消すように怒号が飛ぶ。
「俺は……俺はこんな事認めない! 紋章もスキル反応も確認できないだなんて……奴らに知られたらどうする!」
「知らないわよそんなの!! 私だってこんな事になるって分かってたら子供なんて産まかったわ!」
逆上した女は男を叱咤し、痩せ細った手で自分の正面を指差すと、こう続けた
「そうやって私に責任を押し付けて……本当は自分に問題があること隠してるんでしょ! 貴方が壊れてるかから……だからアレにも異常が現れたんでしょ、違う!? 私を騙してるんでしょ! このジョーカーが!!」
窓越しに見える枯れ木、そこにとまっていた二羽の烏が争うように羽ばたき闇夜に消えていった____
「ふ、ふざけるなよ……なにもかもお前が悪い! お前にジョーカー呼ばわりされる筋合いはない!! クソっ……このままだとお前らのせいで俺までジョーカー扱いされちまう、そうなったらもう……ココでは生きていけない。なんとかしないと……!」
そう告げた直後、男の中で緊張の糸が切れた__そして子供の様に無邪気な笑顔でこう言った。
「そうだ! 殺せばいい。殺せばいいんだ……! お前とアレを! そしてその罪を奴らに着せることが出来れば……」
「……待って、何を言ってるの? そんな__」
「__アクセルエンハンス」__男の左手が黄色く光る。
女が話終えるよりも先に男が動いた。凄まじい速度で距離を詰めると女を床に蹴り倒し、大きく振りかぶった右手で女の顔面を殴りつけた__何度も何度も何度も何度も。
やがて女は完全に脱力し動かなくった。雨粒で反射された月明かりが赤黒く濡れた大理石の床を鮮やかに映し出す。
男は震える声で吐き捨てるように言った。
「へへっ……あとはアレを殺すだ……け……」
その言葉を最後に男は死んだ。
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