奇妙なカメラ

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 歩いていてなにかを蹴っ飛ばした。乾いた音がアスファルトに反響する。  なんだろうと思ったタクローは、数歩先に転がっているその正体に近づいた。  陽の光を反射して光る小さな物体を拾い上げると、それは手のひらにおさまってしまうほど小型のカメラだった。  どうやらだれかの落とし物らしい。汚れてもおらず、傷んでもいない。電源スイッチを入れるとちゃんと作動した。バッテリー残量はあるようだ。もちろん、警察に届けるつもりはない。  タクローは赤貧のホームレスだった。  今朝も日雇いの仕事にあぶれ、NPOの炊き出しを、準備する前から三時間も並んでようやくありつけたばかりだった。百人以上のホームレスたちにまじってとった道端での食事は、食事というより空腹を満たすためだけのエサを食っているような気分で無味乾燥であったが、不服を思う心も擦り切れてしまっていた。
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