奇妙なカメラ

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 たった一杯の汁を胃に収めてしまうと、あとはなにもすることがなく、明日の朝まで日雇い仕事の掲示を待つしかなかった。最近は高齢のためか、タクローにはあまり仕事を回してもらえなくなってきていた。若い頃には考えもしなかった事態である。炊き出しに頼る日々は、将来への希望も夢もなにもない。今日も寝場所に帰って地面に敷いた段ボールの上にひっくり返り、時間の経過を待つだけだったのだが……。  そこへこんな高価な拾い物である。  だれかに売って小銭を稼ごう、と思った。カネがないので、しばらく酒も飲んでいない。  いくらになるだろうかと思いながらカメラを検分する。あちこちのスイッチを荒れた指でめくら滅法にさわっていると、記録されていた写真がマッチ箱ほどの小さな液晶画面に表示された。  若くきれいな女の顔が写っていた。目鼻立ちははっきりとしており、ストレートの黒髪が肩までかかっていた。
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