奇妙なカメラ

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「うっ……」  タクローは声をつまらせた。画面の女の子の口が動いていた。まるでテレビ電話のようだった。 「おまえはいったい……」  なかなか言葉が出てこず、やっとのことでそう言った。 「わたし、アイリっていうの。このカメラの中に閉じ込められているの」 「なんだって?」  カメラがヨーロッパからわたってきたとき、写真に写ったら魂まで取られるというバカバカしいウワサが広がっていた、というのを聞いたことがあった。  担がれやしないぞ、とタクローは警戒した。  いまは特殊詐欺が横行する時代だ。うまいこといって騙そうとする輩はいつもだれかを狙っており、気を許せば身包みはがされてしまう。とくにタクローのような五十をこえた中高年は、絶好のカモである。たとえカネのないホームレスでも気が抜けない。騙されて犯罪に利用されてしまうこともあり得た。
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