2:問診

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2:問診

 先生の仕事を継ぐために、ぼくは先生の仕事にいつも立ち会う。  今日も先生の診療所に、心鏡解放現象で悩む人が紹介状を持って先生のオフィスにたどり着く。  その日来たのは女のひとだった。開ききった心鏡がある、胸の辺りを手や服で隠すように、恥ずかしそうに抱き込んでいる。 「......お名前は?」  紹介状の名前を見ながら、先生はその人にこう聞いた。 「......マミ、と名乗っていいでしょうか」  先生の反応を伺うような様子に、先生は肩を竦めた。 「大丈夫ですよ。そう名乗って呼ばれたいのなら。ここに来たのはトワの紹介ですね?」 「はい」  トワさんは、先生の数少ない友達で上司の一人だ。この診療所はとある大病院の一部で、そちらで手に負えなくなった患者さんを、ここに回して解決を狙っている節がある。少し前にマミさんのカルテを見せてもらったが、この人も何回も自分の身体の肉を削ろうとする自傷癖があるというーー  トレーナーにズボンを着ていてその傷跡は見えないけれど、気になりはじめると赤っぽい肌が擦りむけた傷に見えて気味が悪い。しかし、先生は平然とした顔を崩さないで、世間話を続けた。 「あいつは女性に特別甘い。しかしその分、女性とそれ以外に関しては鼻が利く奴です。今後とも仲良くしてやってください」  大まじめな顔でそんな事を言う先生に、マミさんは半分硬い表情のまま、ふふっと笑う。 「紹介状によると、心鏡解放症候群にお困りとのことですね。間違いはありません?」  マミさんは、我が意を得たりと頷いた。 「はい、もう一ヶ月も開いているんです。歩くたびにざあざあ鳴るし、どう洗ってもべたつくし、臭いが残って気持ち悪い......!」 「それは、それは......」  先生はさも沈痛そうな表情で頷いた。これが、治療前の診察で一番重要なところだ。患者さんの信頼を得て、医者はより良く治療できるようになる。
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