2:問診

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 心鏡解放現象とは、なにかの拍子で心鏡がーー心の窓が開ききったままになり、閉じなくなる現象だ。先生いわく、アゴが外れたとか脱臼したとかと同じ怪我だそうだ。 「これ、本当に治るんですか?」  疑わしげな目つきでマミさんは胸に回した手を外し、トレーナーを脱ぎ捨てた。大きな胸の前に、海の写真が浮かんでいる。ずっと向こうまで広がる砂浜に太陽が穏やかに照っている、この写真のような四角形がマミさんの心鏡なのだ。浜辺は彼女の心の中の風景ーー精神現象だ。風が激しく吹いている様子はないのでぼくはほっとした。  先生はマミさんの心鏡を覗きながらひとり言のように言う。 「ふむ......あなたはなかなか感受性が鋭い人のようだ。激情に我を忘れたり、制御出来なくなったりしませんでしたか」 「え......はい、確かに子供のころは小さなことで泣いたり笑ったりして、怒られたりしていました......なんで、分かるんですか」 「心鏡風景が、そう語っているんです」  先生にそう言っても、マミさんには煙に巻かれた気分しかしないだろう。  ぼくもこの前教えてもらったことだが、心鏡風景には、大きく分けて四つの要素が関係している。  感情は水、常識は土、衝動は火でかるみは空気。十二星座のエレメントと同じだ。心鏡風景はその人の一生変わらない気質を表す原風景で、現在の気分を表す鏡なのだ。  そして、マミさんの心鏡風景を見ると、水が海のように大量にあり、常識はその風景に調和するように寄り添い、衝動は遠くから優しく浮かんでいる。風が吹き荒れていない事は、マミさんは少しばかりフットワークが重い人である事を示している。きっとそれが悩みを進行させたのだろう。 「治療はどんな事をするんです?」  マミさんが少し不安そうな目で先生を見た。先生はそんな彼女に無造作に言う。 「私を心鏡の中に入れて、内部から心鏡の建て付けを直します」  マミさんは驚いたように飛び上がった。しかし先生は当たり前の事のように言った。
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