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「......ねぇ、助手のボク。少し聞いてもいいかな」
足音が聞こえなくなってから、とうとうマミさんは診察椅子を睨みつつぼくに聞いてきた。
「ボクはあの先生はどっちか知っている?」
「......どちらか、とは?」
ぼくが聞き返すと、マミさんは焦っているように言う。
「カリア先生の性別は、男か女かーーどっちかって聞きたいんだけれど」
ぼくはどう答えようか考えた。先生は冷暖房の効いたこの診療所から出ないから、服装は年中ほぼ同じーーニット地の上着にスラックス、その上に白衣を羽織る。靴はヒールの着いた革靴、持ち物はカルテを押さえる。これはぼくがこの診療所に引き取られてから数年来変わっていない。服装だけでは、どちらとも言えない。
しかし、下世話な言葉で言うと先生の胸にはおっぱいがない。ニット地の上着は直線的なその体型をしっかり浮き彫りにしている。手も大きくて骨張っている。これらを考えると先生は男性だと言えるだろう。
しかし、さらにしかし、先生の喉には喉仏がないのだ。そしてぼくを引き取ってから一回も、ぼくの前で着替えをしたりお風呂に入って上がったり、性別を明らかにする行動はされていない。ぼくは男か女かと言えば男だ。これらの事実から考えると、先生は女性なのかもしれない。
「......うーん......」
思わずぼくは考え込んでしまった。やっぱり、性別すら分かっていないというのは助手失格に値するのではないのだろうか。少し不甲斐なくて鼻の奥がツーンと痛くなった。
「......だ、大丈夫?」
「は、はい......ただ、先生の性別がぼくも知らなくって......!」
それだけ搾り出すと、情けない泣き声を押し殺すのが難しくなった。
「そ、そうなの......? ごめん、変なことを聞いて......ほら、ねぇ、泣かないで......?」
マミさんは立ち上がってぼくの前に屈み込んだ。そしてどこからかハンカチを取りだし、ぼくの頬に当ててくれる。思いがけなく柔らかい感触と、甘い匂いにぼくは心が暖かくなるのを感じた。
ガチャリ。
「......おや、どうしましたか」
そこに、先生が帰ってきた。まだ診察椅子に座っていないマミさんが飛び上がった。
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