3:触診

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3:触診

 マミさんが診察椅子に座ってから、先生は医療用のゴム手袋を嵌めた。 「それでは、良いですね」  そして心鏡に腕を伸ばす。マミさんは覚悟を決めたのか、歯を食いしばって目を閉じた。力んだ腕から筋肉が盛り上がって、腕が1.5倍くらいに膨れる。それを見ながら、先生は気遣わしげに言った。 「痛いことはありません。奥のベッドに入って寝ていただいても大丈夫です。身体の番をするスタッフを呼びましょうかーー?」 「いいえ、大丈夫です。このままでーー」 「そうですか。では失礼」  そう言って、先生はマミさんの足の上に乗り上げた。 「なっ......!?」  余りのことに、マミさんの顔が勢いよく赤くなる。 「あぁ、重いです?」 「いえっ、あのっ!」 「重くないなら大丈夫。ほら、入りますよ......!」  先生は言いながら指先をマミさんの心鏡にゆっくりと浸した。 「んっ......くぅ......!」  マミさんは、他人を初めて自分の中に入れる違和感から呻いた。ぼくはマミさんを力付けるように、手を握る。  先生はマミさんの心鏡に指を入れ、手を入れ腕を入れ肩を入れた。  心鏡はぐにぐにと柔らかく形を広げ、先生を飲み込んでいく。 「......よし。もう少しですからね」「えっ......あぁあ!!」  マミさんが見ている前で、先生は心鏡の中に頭を突っ込んだ。  思わず身体をよじるマミさんを、ぼくは握った手に力を入れることで注意する。 「あ......あぁ......!」  マミさんの頬を生理的な涙が伝って落ちる頃。  先生の全身はすっぽりと、マミさんの心鏡の中に入っていた。
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