3:触診

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「はぁ、はぁ......あ、え......?」  先生の姿を探してマミさんが視線をさ迷わせる。 「大丈夫ですよ。ーー先生は今、心鏡風景の中に入っているんです」 「あぁ......え、そうなん、ですか......」  マミさんはまばたきをして目に張り付いた涙を取った。落ち着いた様子にぼくが掴んでいた手を離すと、痛みを散らすように手を振った。 「ごめんなさい、痛かったですか」 「ちょっとだけ。でも、跡は残っていないと思いますよ、えっと、君はーー」  そう言えば、ぼくはマミさんに自己紹介もしていないことに気がついた。 「カリア先生の弟子、ナキと言います」 「そう、ナキーーくんで、大丈夫?」 「はい、お好きに呼んでください」 「そうは言っても、気になるから......わたしはこんなくせにこんなで、嫌なこともたくさんあってーーここに来る前、トワ先生の病院に連れられたのは、心鏡解放症候群だけじゃなくって、コレを治す為なんだってーーやっぱりわたしはどこかがおかしいんだと思う」  先生に見せてもらった、マミさんのカルテの内容を思い出す。  マミさんは、心鏡が開く前からトワさんの病院の常連だったという。  トワさんは、大きな病院の跡継ぎである都合から、自身の専門である精神現象だけでなく、いろんな分野の研修を幅広く受けているのだ。  “その研修中にちょくちょく会っていた子だ。形成外科で自傷跡の処置を受けたり内科で胃洗浄を受けたり、誤解を恐れず端的に言えば、メンヘラの困ったちゃんだ。優しくしてあげてくれ。生き難さは俺たちの想像を絶しているだろうから“  カルテの裏側に書いてあった、トワさんのメモを思い出しながら、ぼくは神妙に頷く。 「そうなんですか......」
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