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 目は心の窓だと言う。そんなのは所詮慣用句だ。心の窓はほら、そこに。胸の前を探ると触れるじゃないか。  どうしてこんな意味不明な言葉が残っているのかわからない。ぼくはそう頭をひねってぼくの心の窓を触った。  心の窓は普通、自分以外には見えないものだ。自分で見せようと思わなければ他人には見えない。いったい心の窓がなにで出来ているのか、どうして本人にくっついているのかわからない。人間以外の動物にもあるものなのかわからない。わからないならそれでいいじゃんと思うけど、科学者は解明しようとしていて、こないだのノーベル化学賞は透明マントの理論を作った人が取ったという。  でも、どうして大人はそんなに解明しようとするんだろう。  考え込んでいると、後ろから声をかけられた。 「こら、心の窓はそんなにいじくるところじゃないよ」  振り返るとそこにいるのは背の高い、きれいなカリア先生だ。カリア先生は、ぼくをあの屋敷から連れ出した人で、ぼくのご飯や服やおもちゃやいろいろ、いろんな品物を用意してくれる人。その代わり、先生の仕事を継ぐことをぼくは求められているけれどーー先生の役に立てるなら。そう思わせるくらいぼくは先生にシンスイしている。  いずれ先生の診療所を継げるなら。  先生の後継ぎにぼくが選ばれたんだ!  先生の仕事は精神現象医。  心鏡解放現象で困った人たちを助ける仕事だ。
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