0人が本棚に入れています
本棚に追加
「その花、イルカくんが?」
「ううん。最初からあった。僕は、たまに来て水をやっているだけだよ」
僕は、再び巨人のほうを見た。
「こいつ、この花を守ろうとしたんじゃないかなぁ」
見せたい景色がある、と言って、僕はアスカさんを連れて、ある高いビルの入り口をくぐった。
割れた窓ガラスに気をつけるように、僕はアスカさんに言った。するとアスカさんは「分かった」って言った。僕らは、ビルの階段を上っていった。
急に、アスカさんがこんこんと咳き込んだ。
「大丈夫?」
「へーき」
……そうか。僕はアンドロイドだから大丈夫だけど、きっとここの空気は、人間にはちょっとばかし厳しいんだな。
「無理しない方がいいよ」
僕はそう言うけど、アスカさんは何も言わなかった。僕は心配だったけども、歩き続けることにした。
僕たちは、階段を上りきって、その錆びた鉄扉を開けた。
僕は、冷たい冬の風を、本物そっくりの人工皮膚で感じながら、そこに立っている。隣にはアスカさんがいて、彼女の綺麗な髪が風に揺れている。
彼女は、今、何を考えているんだろう。
その表情の裏にはどういった心があるんだろう。
分からないのは、僕がアンドロイドだからなのかな。
最初のコメントを投稿しよう!