「エスケイパー」

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「その花、イルカくんが?」 「ううん。最初からあった。僕は、たまに来て水をやっているだけだよ」 僕は、再び巨人のほうを見た。 「こいつ、この花を守ろうとしたんじゃないかなぁ」  見せたい景色がある、と言って、僕はアスカさんを連れて、ある高いビルの入り口をくぐった。  割れた窓ガラスに気をつけるように、僕はアスカさんに言った。するとアスカさんは「分かった」って言った。僕らは、ビルの階段を上っていった。  急に、アスカさんがこんこんと咳き込んだ。 「大丈夫?」 「へーき」 ……そうか。僕はアンドロイドだから大丈夫だけど、きっとここの空気は、人間にはちょっとばかし厳しいんだな。 「無理しない方がいいよ」 僕はそう言うけど、アスカさんは何も言わなかった。僕は心配だったけども、歩き続けることにした。  僕たちは、階段を上りきって、その錆びた鉄扉を開けた。  僕は、冷たい冬の風を、本物そっくりの人工皮膚で感じながら、そこに立っている。隣にはアスカさんがいて、彼女の綺麗な髪が風に揺れている。  彼女は、今、何を考えているんだろう。  その表情の裏にはどういった心があるんだろう。  分からないのは、僕がアンドロイドだからなのかな。     
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