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アスカさんは人気者だし、別に僕も彼女のことが嫌いとは言わない。ただし、みんなの彼女への憧れだとかいうのは、あまり分からないし、共感できない。ただ一つ、彼女を「お人形さん」のようだと思うのは共感できるけど、僕はそういうところに憧れたりはしなかった。
そんなアスカさんが、狭い路地に立って僕を見ているわけである。……しかも、その格好はいつも学校で見るのとはまるで違っていた。パーカーに長ズボン、背中には小さめのリュックを背負っている。いつもは女の子然とした可愛らしい格好をしていたアスカさんが、そういう格好をしているので、最初僕は、アスカさんに似たほかの誰かではないかと疑った。でも彼女の髪の毛と顔を見れば、やっぱりそれはアスカさんの髪の毛と顔だし、僕は納得せざるを得なかった。
アスカさんは僕に微笑んで言う。
「連れてってよ。外に出るんでしょ」
アスカさんは僕と一緒に、檻の外に出るのだと言い出した。
「連れてって」と言う彼女に、僕は言った。
「なんでこんなところに。やめときなよ、危ないよ」
「塾も家も嫌いなんだもん。だから連れてって?」
彼女は相変わらず微笑んでいる。……そうだ、だからお人形みたいなんだ。彼女はいつもこうやって、薄っすらと笑っている顔ばかりで、何を考えているのかまるで分からない。ちょっと嫌な感じだ。それに……。
いや、彼女は今何と言ったっけ。塾も家も嫌いと言ったように聞こえた。僕の聞き間違いじゃなければそうだ。
「今なんて?」
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