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Sleeping Beauty
黒澤がそれに気づいたのは、自分のスニーカーの片方を捜して外に出たからだった。
これまでは、他のクラスの教室のゴミ箱に突っ込んであったりだとか、せいぜいトイレの手洗い場で水浸しになっていたりするくらいで、たいていは校舎内のどこかにあったので、すぐに見つかった。
ところが、今日はどこからも出てこない。
一年の三クラスの教室はすべて確認したし、三階建ての校舎の全部の男子トイレを見て回ったが、なかった。
さすがに女子トイレや、先輩たちの教室のゴミ箱まではあされない。
入学してまだ二ヶ月ほど。
やるほうだって、勝手がわからない先輩方の教室に土のついた下履きをわざわざ捨てに行く度胸はないだろうし、幸いなのかどうか、今のところ女子がこの行為に加担している節はない。
白地に赤のゆるやかなラインが入ったスニーカーの右側だけを手に、黒澤は校舎内の捜索を諦め、昇降口から表に出た。
まぶしいくらいによく晴れていた。
一ヶ月前の同じ時刻には暗くねずみ色をしていた空が、今日はスッキリと明るい青色をしていて、日がずいぶんと延びたことを知る。
建物の裏手に回り込むと、グラウンドでは、いまだ高い位置にいる太陽に照らされながら、サッカー部の面々が土埃を上げて駆けずり回っていた。
顔を横にずらすと、校庭を囲む芝生の上に女子が倒れているのが見えた。
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