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でも、知っているのはそれだけだった。
小規模な高校で、一年生も三クラスしかないから名前と顔くらいは覚えているっていうだけで、入学してからまだたった二ヶ月ほどしか経っていないし、とくに接点もない黒澤の細かい情報までは知らなかった。
「何してんの?」
熱心に部活動を眺めている黒澤の整った横顔に、寝転がった姿勢のまま、赤羽は問いかけた。
黒澤は振り返ったけど、びっくりしたような雰囲気ではなかった。
首を回した時に、サラサラの黒い髪がふわっとなびいて、少年のわりには華奢な肩のずっと向こうから射してくる陽に、それが透けた。
黒髪は、光に透けると銀色になるのだ、と赤羽はその時はじめて知った。
「そっちこそ、何してんの?」
穏やかなその口調は、黒澤も自分のことをよく知らないことを赤羽に知らせた。
「呪いが解けるのを待ってるの」
赤羽がそう答えると、黒澤はすぐに顔をくしゃっとさせて笑った。
よけいな不純物が何もない、ただ純粋に喜んだだけの、正真正銘の笑い方だ、と赤羽は思った。
「あぁ、そうか。そういうことも、ちょっと考えた」
「呪いのことを?」
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